公益財団法人山田進太郎D&I財団(以下、当財団)は2026年7月29日、ウェビナー「大学のジェンダーダイバーシティを、どう前進させるのか?」を開催しました。『「育休世代」のジレンマ』などの著書で知られる東京大学多様性包摂共創センター准教授の中野円佳氏を迎え、大学で女性研究者や理系分野の女性がなぜ増えないのか、何が有効な打ち手になるのかを議論しました。◾️開催概要 開催日時:2026年7月29日(水)15:00〜16:30 開催場所:オンライン(Zoomウェビナー) 登壇者:中野 円佳 氏(東京大学多様性包摂共創センター 准教授) モデレーター:榊原 華帆(当財団 インパクト統括) 参加者:全国の大学19校を含む35名(大学・研究機関の教職員、大学生・大学院生、企業・自治体・報道機関の方。お申し込みベースのため、当日ご参加されなかった方も含みます)参加費:無料 主催:公益財団法人山田進太郎D&I財団◾️ このウェビナーで見えた3つのこと女性が増えないのは、学生の段階から少ない問題もあるが「研究者・教員になるところ」に課題も。東京大学では学部21%・修士25%・博士29%と大学院ではむしろ留学生などで増えるが、准教授17%・教授12%と落ちる(中野氏著書より)。「入り口を増やす」だけでも「入学後の環境を整える」だけでも足りない。両方を同時に動かす必要がある。人数を増やす施策と、採用後の環境づくりはセットで考える。数を増やすために採用しても、歓迎されていないと感じる環境では定着しない。◾️中野円佳氏 講演「大学のジェンダーダイバーシティ:現状と構造的課題」 中野氏は、共同研究者らとまとめた著書『日本で女性研究者が増えない理由』をもとに、大学の現状を語りました。本書は、東京大学の博士課程出身者54人へのインタビュー調査と、全国の国立10大学の協力を得た女性限定公募の調査という、二つの調査に基づいています。54人のうち研究者以外の道に進んだのは17人で、その背景には大きく三つのパターンがありました。優れた研究者を前に「自分はああはなれない」と感じ、別の道を選ぶライフイベントがきっかけになる研究者以外の道のほうが魅力的だと、積極的に選ぶ 中野氏は「ライフイベントがきっかけになっているのは女性に多く、ライフイベントが実際に発生する前から、将来不安が家庭との両立も含めて語られることが多い」と述べ、女性がマイノリティとして経験することや、ライフイベントが壁になっている実態が見えてきたと話しました。女性限定公募については、「普通の公募だと自分は該当しないのではと感じる人にも応募しやすくする、背中を押す効果がある」と評価する一方、採用後の環境に課題が残ると指摘しました。「入ってみたら男性中心のカルチャーで、歓迎されているようには思えなかった」という証言もあったと紹介し、人数が少ないと教授会などで声を上げにくく、分野を越えたネットワーキングが力になると述べました。二つの調査から、中野氏は5つの提言を示しました。ファカルティ・ディベロップメント(教員研修)と意識改革を進める数を増やす施策と同時に、採用後の環境整備・組織風土づくりに取り組む分野を越えたネットワーキングの機会をつくる大学院生や若手研究者の経済的な不安を解消する(国レベルの対応も必要)女性を増やす施策について、大学や部局が説明責任を果たす 中野氏は「単に数を増やすためではなく、女性教員を増やすことが教育環境や研究環境にとって本当の意味でポジティブになるという説明を、大学や部局からしていってほしい」と語りました。◾️ディスカッション「入り口と環境の両方を、どう動かすか」 続くディスカッションでは、当財団の榊原華帆が、大学のジェンダーダイバーシティを「入り口(理系学部への進学)」と「入学後の環境」の二つに分けて整理しました。 当財団は、2035年までに大学入学者のSTEM(理系)分野の女性比率を28%に引き上げることを目標としています。2024年度時点では20.65%。人口減少なども踏まえると、自然に増える分だけでは目標に届きません。そこで目標から逆算し、何人にリーチし、そのうち何人が実際に理系に進むのかという転換率の目標を事業ごとに設定して、効果を測りながら進めていると説明しました。榊原は「入り口の女性比率だけを増やしても、その後の水漏れが続く限り、女性研究者は大きくは増えない。入り口と環境の両方を、同時に動かす必要がある」と述べました。 これに対し中野氏は「日本の場合は、パイプラインの水漏れというよりも、入り口の問題も大きい」と応じ、著書『教育に潜むジェンダー』にも触れながら、高校生になる前のさまざまなバイアスが女子生徒の選択に影響していると指摘しました。 さらに、女子高校生がオープンキャンパスを訪れても男性の教員や男子学生ばかりが目に入る風景では、入学後に残ることを断念しかねないとし、「大学自体も、女性の学生を歓迎しているという環境そのものを作らないといけない」と語りました。そのためには女性の教員やスタッフを増やす必要があり、そこにも「鶏と卵」の構造があります。入り口を広げることと、迎え入れる環境を整えること。中野氏は「入り口の問題も大きい」と指摘しつつ、そのどちらか一方では動かないとして、両方に同時に取り組む必要があるという点で、両者の見方は一致しました。 榊原は、当財団の体験プログラム「Girls Meet STEM」の参加者の例を紹介しました。企業のオフィスツアーに参加し理系に進みたいと感じる生徒が多い一方で、大学の理工学部の説明会では女性研究者が研究を紹介してくれるものの、年齢が近い大学生の女性の姿が見えず、自分には難しそうと自信を失ってしまうケースもあります。大学の環境がすぐに変わらなくても、女性の学生にそういった機会に多く参加してもらい、一緒に話せる機会を設ければ印象は変わり得る。両者は、少数の女性教員に負担が集中しないよう、学生も含めて関わりの輪を広げ、循環を生み出すことの重要性を確認しました。 ネットワーキングについて中野氏は「あの人のようにはなれないと感じるスーパーウーマンばかりではなく、自分も苦しい時期を乗り越えてきたという先輩や、同世代同士で励まし合える関係があると、研究の場に残りやすい」と語り、分野や大学を越えたつながりの意義を強調しました。◾️質疑応答 質疑応答では、ライフイベントを経ても研究者として続けやすい制度、親や高校教員の意識、女性限定公募の意義などについて議論しました。 中野氏は、ブランクがあっても少しずつ研究に戻れる仕組みや、若手研究者向け支援の年齢制限の見直しなど、多様なキャリアパスを支える制度の必要性を挙げました。保護者の意識については「大学に入ったら何ができるかという発信だけでなく、その後に仕事があるのか、子どもを産んだ後も続けられる職業なのかという、保護者の心配に応える発信を、企業などとも協力して大学と一緒に行っていってほしい」と述べました。 榊原は、自身が高校生の頃に参加した大学説明会の経験にも触れ、卒業生や在学生が自分の言葉で語る機会こそ、進路を考える生徒にリアルに伝わると話しました。最後に榊原は「D&Iに関わる私たち自身が、ポジティブな姿勢で変えていこうとすることが大切だと思う。私たち自身がネットワークを紡ぎ、事例を共有し合いながら、それぞれの現場で実装していきたい」と述べ、ウェビナーを締めくくりました。 ◾️参加者から寄せられた声 ウェビナーには、ダイバーシティ推進室、男女共同参画推進室、DEIセンター、人事、入試広報などのご担当者や教員の方々にご参加いただきました。終了後のアンケートには、次のような声が寄せられています。「ハード、ソフトの両面で『迎え入れられている』『アウェイではない』と女性が感じる環境づくりが大事だと再認識しました。中野先生が繰り返された『景色を変える』ことを意識したいと思います」「女性教員を増やすこと、意思決定層を増やすことは難しい。すぐに成果が表れるものではないので、もどかしさを感じました。そうとはいえ、このまま何もしなければ何も変わらないので、早期着手に向けて動き出さないといけないと改めて実感しました」「D&I関連部局の担当者は有期雇用が多い、正規職員は数年で異動するなど、継続性が乏しいという課題は本当に実感するところです」 あわせて、「具体的な事例やベストプラクティスを知りたい」「地方と都内の大学の現状を比較して知りたい」「予算が限られるなかで外部資金をどう獲得するか」「教員と職員の連携をどう進めるか」といった、現場の具体的な悩みも数多く寄せられました。施策の中身そのものよりも、それを進める体制や人手、継続性に課題が集まっていることがうかがえます。 当財団としても、こうした声を受けとめ、大学の皆さまと事例を共有し合える機会をつくっていきたいと考えています。