公益財団法人山田進太郎D&I財団では、昨今広がりつつある理工系学部における「女子枠」入試に着目しています。(7月に公開した全国で広がる「女子枠」入試一覧〜山田進太郎D&I財団調べに〜ついての記事はこちら。)各大学は、少子化による受験人口の減少や、成長分野に関連した学部の再編成促進、理工農学系分野での女性活躍推進などの国の施策を背景に、このような取り組みに本腰を入れ始めています。今回、2024年入学生の入試から新たに「女子枠特別入試」を導入した金沢大学副学長で理事(教育・高大院接続・大学院改革・情報担当)の森本章治氏(以下敬称略)に、大学生アンバサダーのRenが話を聞きました。――Ren:まず、貴学の現状を教えてください。森本:本学においても、日本の多くの大学と同様に、いわゆる理工系で学士課程に入る女子学生の比率が低く、修士課程や博士課程ではさらに低くなります。また、女性教員の比率も低く、職階が上がるにつれて女性比率が低くなっていくという課題があります。実際に各分野の女性比率を数字で見ると、数物科学類が令和4年度実績で10.4%、物質化学類は28.9%、機械工学類が4.8%、フロンティア工学類が8.1%、電子情報通信学類が5.0%、地球社会基盤学類が20.3%、生命理工学類が32.1%となっています。これらすべてを含む理工学域全体の学生に占める令和4年度の女子学生割合は14.4%となっています。人間社会学域は51.1%、医薬保健学域も51.5%と50%を超えている現状の中で、女子学生の比率の低さは理工学域だけの特異な現象とも言えます。 ――Ren: 今年度より女子枠特別入試を設置するに至った背景を教えてください。 森本:1つはダイバーシティ環境の推進です。よく言われているように、ダイバーシティが実現すればイノベーション力が高まる、ということで、これまで留学生の入試制度も整備してきました。女性比率についても、なかなか地道な取り組みだけでは思い切った変化にはつながらない中で、アファーマティブアクション(積極的格差是正)の1つの取り組みとして、今回の女子枠特別入試の検討が始まりました。私自身は、理工学域の電子情報通信学類の担当教員として、長年、学生指導に努めてきました。電子情報通信学類は特に女子学生が少ない学問分野の一つです。そのため、教員採用を女性限定で募集しても応募者が少ないなどの課題に直面し、自らがきちんと、長い目で女子学生を育てていくという形に舵を切るしかない、という危機感を感じてきました。本学でも「女子枠入試」が社会から理解されるのかといった議論もありましたが、さまざまな科学のイノベーションを推進するためには多様な視点がかかせないこと、文部科学省が多様な背景を持った者を対象とする選抜の中で「女子枠」を積極的に明示していたこともあり、令和6年度入試から「女子枠特別入試」を導入することになりました。 ――Ren:私も機械系の学部で学んでいるのですが、なぜ女子学生が少ない現状はなかなか変わらないのでしょうか?森本:本学でも特に機械系や電子系の分野などは女子学生の割合が低い分野です。学類内の女子学生が占める割合が10%前後だと、集まって相談する場がないと感じたり、孤立感を感じたりする場面がどうしても出てきてしまいます。やはり一定の割合の女子学生がいないと、当分野を選びづらいという印象があります。もう1つの背景には、高校の科目選択での「物理」を選択する女子が少ないということがあるのかもしれません。「化学」、「生物」という組み合わせで科目を選択する女子生徒が多く、結果として医学や生物の女性比率は上昇してきています。一方で、物理への苦手意識が根強いようで、背景にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とよく言われますが、高校の先生や先輩,あるいは家族や親戚の中には「女子学生は理系や物理に向かない」といった発言の影響も一定数あるのではないかと感じています。もちろん、アファーマティブアクションへの反対論が根強くあることも認識していますが、それを超える社会的損失が起きているというのが私の認識です。本学が行っているジュニアドクター育成塾やグローバルサイエンスキャンパスに参加する生徒のうち、女子生徒は半数程度おり、割合としては決して低くありません。小学校、中学校時代には、算数・数学が得意だったり、理科が好きだったりする女子生徒はいるのに大学受験になると激減してしまいます。本学では入試制度ごとに学生の成績等について分析を行っていますが、GPA等の成績においても女子学生は良好であることから、それだけ女子学生が大学での学修に積極的に参加しているということです。科学が得意だったり、科学が好きという女子は一定数いるのになぜか大学受験となると理工系を志願する学生が激減してしまう問題は、今後是正していかないといけない課題だと認識しています。卒業後には大手企業や大学に就職し、成功している女子学生が大勢います。大手企業は福利厚生も整備されており、そこで女性研究者として働くことには何の問題もないという成功のロールモデルを高校生等に積極的に説明していくことが必要であると考えています。 ――Ren:高校生たちと接していると、今勉強していることが社会でどう役立つのかわからない、という声も聞こえてきます。 森本:高校で文理選択という形で分かれるわけですが、一部で使わない数学を学んで何の意味があるのか?使わない文学を学んで何の意味があるのか?という極端な議論もあります。結論から言えば、どんな職業に就くにしてもどちらも必要で、例えば理系の技術者であったとしても歴史は必要、地理も必要、文学の素養も必要です。研究者、技術者となって世界の国際会議に参加する、新しい工場の立ち上げに参画するといった場面では、人と人との信頼関係を築く上で、会話中での様々な素養は重要です。同様に、企業で経理、人事、総務、営業などの仕事に就くとしても、データサイエンスをはじめ、理系的な素養は欠かせないことが多くなっています。だから、「この科目が苦手だから」とかその時の成績の浮き沈みだけで、すぐには諦めないでほしいですね。教員の方は、 理科好きの生徒をどうエンカレッジして支援するか、生徒の将来を束縛したり、制限したりしないようにいろいろな分野を興味深く教えて、生徒達が好奇心をもてるようにご指導いただきたいと思います。 ――Ren:最後に全国の高校生女子にメッセージをお願いします。 森本:本学では1、2年次の共通教育科目で物理や化学を学ぶため、それらの科目が苦手な学生への支援として、リメディアル教育も一部導入しています。また、個別に専門分野の教員がフォローする体制も整備しています。高校生の皆さんは、何が自分に向いているのか、どういうことに自分は関心を持っているのか、ということについて、体験をしたり調べたり、いろいろな人に話を聞いたりしながら、自分の好きなことや自分だけの関心分野を努力して見つけてほしいと思います。そして、興味をもったら躊躇せずに踏み込んでいく、ぜひ、そういった挑戦をしてほしいと願っています。 ――Ren:お話をお聞かせくださりありがとうございました。 ▼Renより取材後記▼ 私の所属する機械系学科は女性比率が10%未満で日々いろいろなことを感じながら大学生活を過ごしています。今回の取材で、金沢大学さんの入試女子枠では、他学科に比較して多い人数の枠をとってくださると聞いて、今後の機械系女性の割合が大きくなるのではないかと、とても嬉しく思いました。そして、機械系進路を選んだ女性のロールモデルが増え、その姿を見て、さらに女性が機械系の進路を目指すようなサイクルが生まれることが楽しみです。 また、リメディアル教育も行われているということで、理系が苦手でも進みたい理系進路を選ぶことのハードルが下がることは非常に素敵な制度であるなと思いました。今後もこのような取り組みがさらに増え、女性がマイノリティな理系学部にも、女子学生が増えていくことが楽しみです。(注:本記事は2023年10月時点の情報です。最新の入試情報は必ず大学のHPでチェックしてください。)