7月1日にメルカリ代表取締役CEOであり、財団の創設者である山田進太郎が私財で設立した山田進太郎D&I財団。設立の目的は、誰もがその人の持つ能力を発揮し活躍できる社会の実現のため、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進すること。第一弾としてSTEM(理系)分野のジェンダーギャップの改善に向けて、中学3年生向けの給付型の奨学金の募集を開始しました。 日本では、科学・技術・工学・数学の教育分野を指すSTEMは「女性よりも男性の方が向いている」という間違った固定観念から親や先生に反対されることや学生自らがSTEM分野への進学を敬遠しがちで、 まだまだ理系で活躍する女性が少ない現状があります。 本記事では、財団設立のオープニングイベント「中学生女子向けの活躍中の先輩が語るSTEM(理系)の面白さ」と題して行われたオンライントークセッションの内容をお届けします。 当日は北海道から沖縄まで、全国の悩める中学3年生を中心に150人程度が参加。 理系で活躍する先輩たちに中学生が質問したいことを事前に募り、中学生の質問に寄り添う形で、山田進太郎がモデレーターとして問いを投げかけ、ゲストの皆様にお答えいただく形で進んでいきました。 <登壇者>スプツニ子!さん(アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授)高橋祥子さん(ジーンクエスト代表取締役社長/ユーグレナ執行役員、農学博士(生命科学分野))大隅典子さん(東北大学副学長・附属図書館長・大学院医学系研究科教授)山田進太郎(山田進太郎D&I財団代表理事/メルカリ 代表取締役CEO) ー中学3年生のころを思い出しつつ、どんなキャリア選択を経て、現在に至ったのかという点について教えて下さい。(中学生からの質問より) スプツニ子!:私は数学とコンピューターサイエンスを大学で専攻していました。中学校の時にすでに数学、プログラミングが好きでしたね。母親が数学の大学教授で、女性が理系に進むということは何の違和感もありませんでした。学校の先生や親の反対にあうというエピソードを聞くと、私はすごくラッキーだったなと思います。なぜ今、私がアーティストなのかというと、こんなにエンジニアリングやサイエンスが世界を変えているのに、どうして自分のクラスメイトや教授達は男性ばかり、しかも白人男性達ばかりなんだろう、とイギリスの大学にいた頃に思ったことがきっかけの一つなんですね。理系分野に関わる人の視点や考えの偏りによって、世の中に良くないことが起きるんじゃないかと思い、テクノロジー分野を社会学的な側面で考察し、議論できないかと考えるようになりました。大学院に進んでからスペキュラティブ・デザインの研究をし、「生理マシーン、タカシの場合」などの作品を発表したら、ニューヨークMOMAや東京都現代美術館など様々な美術館で展示することになって、アーティストになったという経緯です。 髙橋:私は遺伝子解析の会社を経営しています。大学時代はいわゆるゲノムの研究をしていて白衣を着て実験室にいました。私の場合は、中3の時は、スプツニ子!さんのようにまだ将来やりたいことは決まっていなかったです。父と祖父含め医者が多い家庭環境でしたので、医者になるか、医者以外になるかという選択肢を考えるところから考え始めました。父の仕事場である病院に見学に行くと、当たり前のことなんですが病人ばかりなんです。病気を治療するのも素晴らしいけれども、病気になる前に未然に防げないのかと思うようになったのがきっかけで、漠然と生命に携わることをしたいと思うようになって農学部に進学し、病気の予防のメカニズムを研究するようになりました。 大隅:私は東北大学で教授をしています。中学生の時は、いろいろなりたかったものがあって、キャスターであったり、中学3年の時には建築家にあこがれていたりもしました。高校に入ってからは心理学や言語学等、文系よりの勉強もしました。 我が家は両親ともに生物系の研究をしていて、父は鯨、母は酵母菌、私は間くらいのネズミや人間に興味を持って研究に取り組んできました。自分にしかやれないことをやろうと思って、現在に至っています。 ー理系に進むと決めた時や進学してから、どんなハードルや課題に直面しましたか?(中学生からの質問より) スプツニ子!:数学科志望だった私の母は高校の先生に、「女性に数学は向いていない」といわれたそうなんですね。それでも母の父親が「そんな馬鹿なことを聞くな」と彼女の背中を押して、希望の大学へ入学。彼女は「大学で首席を取ったら、女性だからと誰にも文句を言われないんじゃないか」と思って、首席を取り、研究者になりました。なので、母からは「女性だからと周りからの偏見にあう事があるかもしれないが、みんな間違ってるので気にしないで。自分が好きなことをやりなさい」と言われて育ってきましたね。 大隅:私が大学院に進学したときに、「女性は2倍の業績がないと男性と同等に見られないので、がんばれ」と言われました。でも、2倍は物理的に無理だと思って、1.5倍を目標にしてきました。でもいまはだいぶいい時代になって「やりたい」という気持ちを応援してくれるようになってきたと思います。 山田:財団として課題を見る中で、親や先生が「女性に理系は向いていないんじゃないか」と言うケースも多いという認識をしていました。大隅さんはどうお考えでしょうか? 大隅:日本においては男女の理数教科の学力差は、統計的優位差はないことがわかっています。男女の差ではなく、個人差だということがデータからも明らかでした。自分は女性だから理系に行っても……という思い込みや無意識のバイアスがあるとしたら本当にもったいないことですね。 スプツニ子!:本当にもったいないですね。 山田:お三方、ご両親が理系の方が多いですね。 髙橋:私の場合は、父が医者でしたが、母は専業主婦でした。博士課程の大学院に行くときは反対されたんです。「女の子が博士課程なんて行って、就職もできなくて、結婚もできなかったらどうするの」と言われたんですね。女の子が大学院に行くとなったら反対するのも、ゴールが就職や結婚なのも、色々と突っ込みどころは多いんですけど、私の親のように考えている人が多いのも現実です。私は結婚がゴールではなかったけれど結婚もしましたし、就職はしていないけれど起業はしていますし、大学院に行ったことは何のデメリットもなくメリットしかなかったなと思いますね。 ー理系に進もうと考えているのですが、友だちはみんな普通科に行くので迷うことがあります。どうしたらモチベーションを高く維持できますか?(中学生からの質問より) 大隅:高校進学の時の意思決定だけではなく、人生のいろんな場面で決定をしていく必要があります。人と同じ選択をしてもいいし、人と違う選択をしてもいいんです。みんなそれぞれ、好きなことを仕事にしていくということができたら、その方が幸せだと思います。 スプツニ子!:人と違う人生を歩めば歩むほど、その人の個性として突出していけるところもあります。そこで出会う仲間たちは、好きなことを共有できる仲間になりますし。私の場合、大学の時は、コンピューターオタクの人たちに囲まれて幸せでしたね。 ―理系の仕事をしている中で、女性だからと差別的な扱いをされたことはありますか?(中学生からの質問より) 髙橋:私の場合は、女性だからといって悪い扱いを受けたことはあまりなかったです。というのも、高校の時は理系クラスだったのでクラスの女の子も理系ばかり。大学も9割くらいが女性で、大学院の研究室も偶然8割ぐらい女性だったので、女性だからという差別的な扱いはありませんでした。起業してからも、自分で会社を作っているので、会社の中での差別もありません。逆に、女性が少ないから覚えてもらえるというメリットもあります。一方で、出産を経てから、「育児は女性がすべき」という何となくの風潮がまだ社会にあると感じました。世間一般で、育児・家事は女性がするべきというイメージもありますが、今日参加の皆さんはこういう風潮に流されずに、是非活躍してほしいと思います。 スプツニ子!:私も理系分野で勉強したり働く中で「女性だから」と差別されるという経験はないです。むしろ理系の外の、一般社会の方が変な偏見があるような気がします。マサチューセッツ工科大学の教員の採用に携わっていた時があり、MITは過去に白人の男性の先生ばかり採用していたことの反省から、多様な人種や性別の人を採用しようとしていました。特に今は、D&Iの推進で、メルカリさんもそうですが、Google・Appleなども女性のエンジニアが欲しいという動きがありますね。 山田:理系だからという差別はあまりないと思います。理系の仕事の場合は成果が分かりやすいこともあるので、女性も実力のある人にとっては良い環境なのではないでしょうか。 ー何になりたいのか分からない状態で、選択肢を広げるために理系に進みたいと思っていますが、今後大学の学部を決めるとき、どのように決めるといいでしょうか?(中学生からの質問より) 大隅:確かに、理系の選択をしておいた方が後の選択肢が広がるのではないかと思います。大学の学部を決めるのは、大きな問題だと思うけれど、今の受験のテクニックで言うとすれば、傾向と対策で入れるところに入るというのはありでしょう。ただ、重要なのは大学入学はゴールではなく通過点で、その先どうしよう?ということを考えること。 山田:今日のゲストの方々もそうですし、最初から決まっていたというよりも、やりながら決めていくというのが重要。大学に入ってからの出会いもあるし、変わっていくのもありです。髙橋:私が農学部に進んだ理由が、全く質問者さんと同じ理由でした。幅広く生命にかかわる仕事をしたいと思ったので、応用領域が広く選択肢が広がる学部を選びました。 ー最後に、理系を目指す中学生の女性の皆さんへのメッセージをお願いします。スプツニ子!:もっともっと多くの女性に理系に進学してほしいです。理系分野はとても楽しいし、世界を変えていく可能性がある分野です。周りからの反対で諦めることはとてももったいないことなので、進んでほしいです。もし、親ブロックとかされていたら、私が直接電話しますので、ツイッターから連絡くださいね(笑) 髙橋:私の会社はゲノムや遺伝子を取り扱っているのですが、自社の研究開発部の7割が女性です。特にテクノロジーで社会課題を解決したいという女性が多く、新しいことができるとワクワクしながら仕事をしているので、みなさんも一緒に将来この理系の分野で仕事ができたら嬉しいです。楽しみにしています。 大隅:「世界を変えた10人の女性科学者、彼女たちは考え、何を信じ、実行したのか?」という本がこの8月に出て、解説を書きました。偉人たちの話を知ると、自分たちと遠い存在だと感じることもあるかもしれないけれど、同じ人間なので変わらない部分もあると思います。素晴らしいことをした人も挫折することがあるし、いつも順風満帆ということはありません。どうせ1回しかない人生なので、好きなこと、自分が楽しいと思えることを貫いてください。 ーありがとうございました!