公益財団法人山田進太郎D&I財団は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の協力を得て、2023年12月6日(水)にオンラインイベント【新世代の財団が作り出すインパクト】を開催しました。当日は、各財団のビジョンや、実現したい社会的なインパクトを紹介しつつ、社会的な価値や影響を最大化するための財団の役割、日本のフィランソロピーのこれからの展望をそれぞれの立場からお伝えしました。ここでは、イベントの模様の一部をご紹介します。登壇者柏倉美保子氏:ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表山田進太郎:公益財団法人山田進太郎D&I財団 代表理事テーマ1:各財団の紹介▼山田進太郎D&I財団 活動紹介山田:日本の子どもたちは、中学の時点では、理数科目の成績の男女差はほぼないのですが、OECD諸国の中でSTEM分野に進学する女性割合を比較したときに、日本は非常に低く、世界最低のポジションになっているというところを課題と捉えています。この課題については、国ごとにかなり努力をしていて、改善に向かっている国も多いのですが、日本はまったく男女のギャップが埋まってないのが現状です。女性がマイノリティであるため、次の世代も理系を選びづらいという形で、どんどん世代間継承されて悪循環になっているのです。財団ではKPIを定めていて、2035年の大学入学者のうち、STEM分野の女性進学比率を28%にすることを目標に掲げています。これ自体はさまざまな学部の「平均値」という形での目標なので、とても高い目標というわけではないと考えているのですが、達成には時間がかかるので、これを十数年かけて目指していければと思っています。20数パーセントまで到達すれば、マイノリティとはいってもそれによって選びづらいという状況は解消されていくのではないかなと考えています。財団の活動の柱としては、まず、奨学助成金事業をやっています。それから、さまざまな学校や団体、教育委員会などと連携したプロジェクトで実践しています。あとは、政府やメディア等に対しての調査、提言活動ということにも取り組んできています。奨学助成金事業については、現在3年目を迎えており、今年は3,000名ぐらいの方に応募いただくことができました。一定の条件でスクリーニングした後に抽選という選考方法を採っていることもあり、私たちがグレーゾーンと呼んでいる、理系に行くか文系に行くかどちらにしようか迷っている層に対して、理系選択を後押しする、いうことをねらいとしています。今年度の新たな取り組みとしては、高校の教員や教育委員会の方々を対象としたイベントも事業として立ち上げました。調査・提言活動では、海外の成功事例の調査としてドイツのガールズデーという取り組みを調査しました。これは、10歳~15歳の女子が、STEM分野をはじめとする女性が40%未満しかいない職場を訪れて仕事を体験するという内容なのですが、企業や大学も協力して国を挙げての取り組みになっています。最近、東工大の総合選抜型入試で女子枠が始まって話題になったり、国立大学女子大での工学部設置の流れもあったり、やっと日本でも社会の流れとしてもこのテーマが動き始めていると考えているので、これらの機運も活かしながら、私たちの目標とするところを目指していきたいと思います。▼ビル&メリンダゲイツ財団 活動紹介柏倉:まず最初にゲイツ財団のミッションをご紹介したいと思います。「すべての生命の価値は等しい」という理念のもと、「誰もが健康で豊かな生活を送る機会を得られる世界」を目指しています。ビルとメリンダ、2人の共通点として、「社会への恩返し」やフィランソロピーというものを重要視する価値観のご両親から2人とも生まれていて、そんな2人が出会って新婚旅行先に選んだのが、アフリカでした。現場を見ようということで、2人にとって初めてのアフリカに訪れて、本来であれば予防や治療で防げる病気で多くの子どもたちが命を落としているという現実を前にしたんですね。それが原点となって、Microsoftで得た資産のすべてを子どもたちや貧困をなくすために投じようという決意で2000年に立ち上げたのが本財団になります。中でもグローバルヘルス分野に特に力を入れてきました。これまでの寄付金額の合計は714億ドル、141の国々で活動を行っており、日本での活動は、2017年に始まって今6年が経つところです。ビル・ゲイツはすごく統計やデータが大好きなので、当時の世界銀行の報告書でデータを見ていたときに、年間、200万人の子どもたちが下痢でなくなっていること、そしてそのうち百万人の子どもたちはロタウィルスというワクチンを接種していれば亡くならなくていい命であったことなどを知って、グローバルヘルス分野に注力するようになりました。世界の5歳以下の子どもたちの死亡原因のうち、予防や治療で命を救える可能性として、マラリアやエイズ、結核などがあるわけですが、こうした病気の名前がゲイツ財団ではそのまま部署の名前になっています。課題解決していく上で一番重要なポイントは何か?という点については、あらゆるセクターと連携することだと思っています。これまでの国連やNGOとの連携以外にも、ゲイツ財団が連携している先は民間企業はじめあらゆるセクターと連携する組織を重要視しています。例えば、ワクチンアライアンスGaviができることによって、ワクチンは低所得国が個別に企業に価格交渉するという状況から、Gaviが束ねて低中所得国が製薬企業と交渉することで、経済発展度合いに見合った価格設定にてワクチンの供給にこぎ着けることができました。私たちはこれからもさまざまなセクターと連携しながら、グローバルヘルス分野に最大限のインパクトを出せるスキームを一緒に考えて共同投資をしながら、ワクチンや治療を一番必要としている人に届けていきたいと考えています。テーマ2:「新世代の財団」とは?その可能性とは?山田:メルカリでは経営課題として多様性ある組織づくりに取り組んできました。外国籍や女性など、さまざまな属性のエンジニアの採用をするなかで、日本では女性エンジニアがそもそもマーケットにいないというところがあって、いろいろ考えていくと、大学に入る時点で、理系分野を選ぶ女性が少ないという課題に突き当たりました。メルカリでも、高校・大学生向けのプログラムはBuild@Mercariなど、いくつか取り組んでいますが、中高生向けまで対象を広げて取り組むというのは、一企業の取り組みとしては、なかなか難しいということがあり、財団立ち上げに至りました。もともと、非営利活動には、個人的にもとても興味もありましたし、ゲイツ財団さんのポリオの話も印象的で、やはり経済原理だけだとなかなか解決が進んでいかない課題が、まだ世の中にはあるということは常々考えていました。ビジネスをやりながらではあるのですが、非営利でもできることには取り組んでみたいと考えるなかで、このSTEM分野のジェンダーギャップの改善というのは大きなテーマとしておもしろいのではないかと思いました。実際に財団として活動すると、非営利ということもあって、学校や教育委員会、政府、企業もいろいろと協力してくれるので、コラボレーションがしやすい、と感じています。従来、財団というと硬直的な感じを受けると思いますし、我々も公益財団になっているので内閣府と認可などのやり取りをしながら事業運営をしているのですが、そのような条件があっても、もう少しダイナミックかつスタートアップ的に活動できるのではないかと思い始めました。まさにゲイツ財団さんが切り拓いてきた分野だと思いますが、資本主義とは違うエコノミクスで動いてるところにおもしろさを感じています。 柏倉:基本的にゲイツ財団の活動は低中所得国へのソリューションのパイを最大限、増やすことなので、日本での活動においても日本の民間企業や、政府、アカデミア等の日本発のソリューションをどのように最大限、届けていくかということがミッションになっています。そのミッションに対して3つ、意識していることをお話していきますね。まず1つ目は採用です。熱量が高く同じミッションに向かっているであろう人を雇うということは大事にしていることの1つ目ですね。2つ目はゲイツ財団では、多様なパートナーがいるので、NGO、政府等連携先とともに大きな目標のKPIを共有できているか、何に向かっているかの方向性を全員がよくわかっていることを大事にしています。タイムラインを引いて一年間のうちにどこのマイルストーンでどれぐらいの結果を出さなきゃいけないかを決め、うまくいってないのであれば、振り返りをしつつ、戦略を作り直すということも繰り返し行っています。 3つ目はチームの多様性です。戦略において、何をするにもやはりマルチセクターであることもそうですし、チームの中でも世代やバックグラウンドなど、さまざまな方々とチームを組むことで成果を最大化していきたいと考えています。テーマ3:どんなビジョンを描いて活動しているか?柏倉:日本は戦後、国民皆保険制度を日本政府や民間企業が協力しながら作り上げてきており、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(高額になりすぎない適正な価格で国民全員が医療にアクセスできるような制度のこと)が実現されている国として世界的に認知されています。こうした日本の企業や政府にある技術やナレッジを、最大限つないでいくということが日本に眠っているポテンシャルだと感じております。日本のODA政策はインフラやエネルギーに寄っており、G7各国の国際保健分野の予算との乖離もあったので、「予算倍増」という目標を長年掲げてきました。コロナという時流もあってこの目標が一時的に達成されたのですが、ちょうど最新のデータが今月か来月あたりに出てくるのですが、おそらく急速にガクンと落ちているんじゃないかなと思っています。パンデミックが過ぎ去った後にもこの分野に引き続き関心を持っていただく、そうした政策づくりを改めて来年以降やっていかねばならないと考えております。食料価格の上昇によって栄養不良が引き起こされる地球規模での気候変動や災害、ウクライナやガザ地区での紛争等のように、地球社会が抱えているさまざまな課題が、本当に今まで以上に苛烈になってきていると感じています。しかも、それが一つの課題だけではなくて、複合的になってきていると言えます。そうした中で、どのようにこうしたグローバルヘルス分野の重要性を、ひとりひとりに認知してもらえるかという点は引き続き課題に感じています。フィランソロピーの役割が急拡大しないと、人類が今抱えている課題を乗り越えていくのには本当に厳しい時代になってきていると実感しています。その意味では、個人的には日本社会において、フィランソロピーの重要性はますます増していくと考えています。山田:財団自体のビジョンは、誰もが持てる能力を発揮して活躍できる社会の実現となっていますが、いろんなD&Iと考えると、終わりがない世界ともいえます。私自身を振り返ってもさまざまなバイアスがあったと思うし、今でもあると思うので、そこは継続的なアップデートが、一人ひとり必要なのではないかと思っています。ただ、そのなかでも、日本で今一番、機会ロスというか、大きな課題だと考えているのが、STEMのジェンダーギャップの課題だと捉えています。この問題は一気に解決することでもないし、お金をかければ解決するということでもない、売上があがるものでもないと思いますが、そこをコツコツと変えていけるのが「財団」という1つの仕組みなのかなと考えています。財団を立ち上げてみて初めてわかったということも多くある中で、まずは奨学助成金というところから始めて、なるべく目標数値に対して最短経路でいけるように、戦略を作っていこうとしています。チームを増強して継続的にこのテーマに産官学民のさまざまな力を結集して取り組んでいくことによって、少しでも社会が変わっていくきっかけになればと思っています。 【イベント概要】イベント名称:新世代の財団が作り出すインパクト開催日:2023年12月6日(水曜日)19:00〜20:00場所:オンライン(Zoom配信)参加費:無料主催:公益財団法人山田進太郎D&I財団協力:ビル&メリンダ・ゲイツ財団イベント公式サイト:https://www.shinfdn.org/posts/66Nqmgsc